法人破産

公開日:2026/8/26|執筆:弁護士 末安陸斗

会社の破産を決意してから弁護士に相談するまでの間に、社長が自分の判断で動いてしまうことがあります。家族を守るため、世話になった人に報いるため、少しでも傷を小さくするため。動機はどれも理解できるものです。

しかし、この期間の行動こそ、破産手続で最も厳しく調査される部分です。破産管財人は、支払いが止まった前後の資産の動きと入出金を必ず調べます。問題のある行動が見つかると、手続が長引き、社長個人の免責が危うくなり、守ろうとした相手に返還請求が及びます。

やってはいけないことを、理由とセットで7つ挙げます。当てはまる行動を考えていたら、実行する前に相談してください。

1. 会社や自分の資産を、家族の名義に移す

自宅を配偶者名義にする。会社の車を子の名義にする。預金を家族の口座に移す。「破産しても家族のものなら取られない」という発想ですが、逆の結果になります。

破産の前にした無償の名義変更は、管財人が否認権を行使して取り戻します。名義を移した事実は、不動産の登記や預金の振込記録に必ず残るため、隠し通すことはできません。そして財産を隠す行為は免責不許可事由に当たり、社長個人の債務が免除されなくなるおそれがあります。

さらに、会社の財産を無償で受け取った家族には、会社の滞納税について第二次納税義務が生じることがあります。守るつもりの家族に、返還義務と納税義務を負わせる行動です。

2. 特定の取引先や親族にだけ返済する

「この取引先にだけは迷惑をかけられない」「親から借りた分だけは返したい」。この返済は偏頗弁済と呼ばれ、管財人が受け取った相手に返還を求めます。

返還を求められるのは社長ではなく、受け取った取引先や親族です。善意の返済が、その相手を破産手続に巻き込みます。親族への返済は、管財人が最も厳しく見る項目です。

詳しくは「この取引先にだけは返したい」が危険な理由で解説しています。返したい気持ちが出てきた時点で、実行する前にご相談ください。

3. 返済の見込みがないまま、最後の借入をする

「もう一度融資を受けて、ダメなら破産」という順番の危うさは別の記事でも書きましたが、ここでは別の側面を指摘します。

返せる見込みがないと分かっていながら借り入れる行為は、社長個人の免責に直結します。破産直前の借入について、管財人は借入時の資金繰りの状態と使い道を調査します。支払不能の状態で、それを隠して借りたと評価されれば、免責不許可事由になり、場合によっては詐欺として刑事上の問題にもなりえます。

クレジットカードで商品を買って換金する、いわゆる現金化も同じです。破産直前の換金行為は取引履歴からすぐに分かり、免責の大きな障害になります。

4. 帳簿・通帳・契約書を処分する

「見られたくない記録があるから」と帳簿や通帳を捨てる。これは問題を消すのではなく、増やす行動です。

社長には、破産手続で管財人に会社の状況を説明する義務があります。資料がなければ、管財人は取引先や銀行に照会をかけて一つずつ再構成することになり、調査は数か月単位で長引きます。その間、社長は問い合わせに対応し続けることになります。

そして「資料がない」こと自体が、帳簿の隠滅・偽造として免責不許可事由に当たりえます。都合の悪い記録があっても、そのまま開示して経緯を説明する方が、結果としてずっと軽く済みます。

5. 事業だけを新会社や親族に移す

「会社は潰すが、事業は妻の新会社で続ける」。設備と取引先をそのまま移し、看板だけ変える形です。これは最も問題の大きい行動の一つです。

事業には価値があります。取引先との関係、設備、在庫、従業員。これらを対価なしに新会社へ移すことは、会社の財産を債権者から奪う行為として否認の対象になり、管財人は新会社に対して財産の返還や対価の支払いを求めます。事業を引き継いだ親族の会社には、滞納税の第二次納税義務も生じえます。

事業に引き継ぐ価値があるなら、方法はあります。管財人や裁判所が関与したうえで、適正な対価で事業を譲渡する形です。破産の前に弁護士が入っていれば、この設計ができます。黙って移すのと、手続を踏んで譲るのとでは、結果がまったく違います。

6. 役員報酬を上げる・会社の資金を個人口座に移す

破産が近づいた時期に役員報酬を増額する、会社の預金を「貸付金の返済」名目で社長個人の口座に移す。生活資金を確保したい気持ちからの行動ですが、通帳を見れば一目で分かります。

管財人はこの資金移動を否認し、社長個人に返還を求めます。社長個人も同時に破産する場合、この返還義務が個人の手続を複雑にします。生活資金の確保は、破産手続の中で認められた方法(自由財産の範囲での保有)で行うのが、結局は最も確実です。

7. 何もせずに放置する・連絡を絶つ

督促から逃れるために事務所を閉めて連絡を絶つ。破産の費用がないからと、何年も会社を放置する。行動としては逆方向ですが、結果は同じく深刻です。

放置している間も、税金と社会保険料の滞納は膨らみ、債権者の訴訟と差押えは進みます。従業員がいれば、未払いの給料を国が立て替える制度も、破産の申立てがなければ使えません。そして社長は、連帯保証した債務を抱えたまま、時間だけを失います。

破産は、債権者から逃げる手続ではなく、法律に沿って清算して再出発するための手続です。連絡を絶った社長より、正直にすべてを開示した社長の方が、手続も免責も早く進みます。

共通するのは「弁護士が入る前の自己判断」

7つに共通するのは、どれも弁護士に相談する前の自己判断で起きることです。

管財人として事件を見ていると、問題のある行動の多くは、悪意ではなく「知らなかった」ことから生まれています。名義変更も駆け込み返済も、それが否認や免責不許可につながると知っていれば、しなかったはずの行動です。

相談が早ければ、これらの行動を一つも起こさずに申立てまで進めます。すでにやってしまった行動がある場合も、隠すのではなく最初に開示してください。経緯を整理して説明できれば、影響を小さくする余地は残っています。

初回相談は30分無料です。「これをやってもいいか」という段階の相談こそ歓迎します。LINE またはフォームからご連絡ください。

破産管財人が申立てのどこを見るかはこちらの記事、法人破産の手続全体は法人破産と代表者の債務のページで解説しています。

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