公開日:2026/8/23|執筆:弁護士 末安陸斗
資金繰りが月を追うごとに苦しくなっている。もう一度だけ融資を受けて、それでも立て直せなければ、そのときは会社を破産させよう――そう考えている社長は少なくありません。
会社を破産させたとき社長個人がどうなるかは、「いつ相談したか」で大きく変わります。ギリギリまで粘った結果、破産する費用すら残っていなかった、というケースを私は何度も見てきました。
会社と社長は、法律上は別の人格です。会社が破産すると、会社の借金は手続の終了とともに会社ごと消滅します。
しかし社長が連帯保証人になっている借入は、話が別です。銀行や信用金庫からの融資の大半は、代表者が連帯保証をしています。会社が破産した瞬間から、その保証債務は社長個人への請求に変わります。金額はそのまま、数千万円の請求が個人に来るのです。
つまり会社の破産は、社長個人の債務問題の始まりでもあります。社長が取れる道は、大きく次の3つです。
どの道を選べるかは、相談に来た時点で会社と社長の手元にどれだけ資金と時間が残っているかで決まります。
社長から最も多く聞かれる質問は「家はどうなりますか」です。
社長個人が自己破産する場合、自宅は原則として手放すことになります。住宅ローンが残っていれば金融機関が競売または任意売却で処分し、ローンがなくても破産管財人が換価して債権者に配当します。
一方、経営者保証ガイドラインを使える場合は、自宅を残せる可能性があります。華美でない自宅であることや、債権者の同意が得られることなど条件はありますが、破産では不可能な「家を守る」という選択肢が生まれます。信用情報機関にも登録されません。
ただし、このガイドラインを使うには前提があります。弁済計画を立てて債権者に示す必要があり、会社が完全に資金を失ってからでは計画が組めません。資金が残っている段階で相談した社長にしか、この道は開かれていないのが実情です。経営者保証ガイドラインの詳しい条件は別のページで解説しています。
「破産したら何もできなくなる」と思い込んでいる方が多いのですが、実際の制限は限定的です。
自己破産をしても、生活に必要な家財道具や99万円以下の現金は手元に残せます。破産後に働いて得た給料は、全額が社長自身のものです。差し押さえられることはありません。
職業の制限も、手続が続いている数か月の間だけです。警備員や生命保険の募集人、宅地建物取引士など一部の資格は手続中に使えなくなりますが、免責が確定すれば元に戻ります。会社の取締役も、破産手続の開始でいったん退任しますが、再び就任することはできます。新しい会社を作って再起した社長も実際にいます。
クレジットカードやローンは5年から7年ほど使えなくなります。生活上の影響はこれが最も大きいでしょう。それでも、何千万円の保証債務を抱えたまま督促に追われ続ける状態と比べれば、再出発の条件としては十分です。
相談に来られる社長の多くが「まだ早いんじゃないか」と言います。取引先への支払いはなんとか回っている、もう一度融資が受けられそうだ、だから破産はそれがダメだったときの話だ、と。気持ちは分かります。会社をたたむ決断は、経営者にとって最も重いものです。
しかし、この「ダメだったら破産」という順番には、見落とされている前提があります。破産するにもお金がかかるのです。
法人の破産では、裁判所に納める予納金だけで最低でも20万円、負債の規模や債権者の数によっては数十万円から100万円を超えることもあります。社長個人の破産も別に申し立てる必要があり、こちらも管財事件となるため予納金として少なくとも50万円程度を見込まなければなりません。これに弁護士費用が加わります。
最後の融資を使い切り、口座の残高が数万円になってから相談に来ても、申立てそのものができません。破産もできず、会社を放置するしかない状態に陥ります。
従業員を雇っている会社では、問題はさらに大きくなります。
資金が尽きた状態で事業が止まると、その月の給料が払えません。解雇予告手当も払えません。未払いのまま従業員を放り出すことになり、本人たちの生活が直ちに立ち行かなくなります。
未払いの給料を国が立て替える制度はあります。未払賃金立替払制度といい、未払額の8割までが支払われます。しかしこの制度を使うには、破産の申立てをしているか、それに準じる倒産の認定を受けている必要があります。申立ての費用がなければ、この制度にもたどり着けないのです。
解雇をいつ、どの順序で行うか。最後の給料と解雇予告手当をどこから捻出するか。社会保険の資格喪失の手続は誰がやるか。これらはすべて、資金が残っている段階で段取りを組まなければ実行できません。
「もう一度融資を受けて、それでもダメなら」という計画には、もう一つ危うさがあります。
追加の融資にも社長の連帯保証が付きます。その融資で立て直せなかった場合、社長個人の保証債務はその分だけ増えます。破産するなら結果は同じだと思うかもしれませんが、経営者保証ガイドラインで整理する道を考えるなら、債務の額は計画の成否に直結します。
さらに、返済の見込みがないと分かっていながら借り入れた場合、破産手続で問題になることがあります。免責が認められない事由として扱われたり、管財人から借入の経緯を詳しく調査されたりするのです。「最後に借りてから破産」は、社長自身の免責を危うくする行動になりえます。
ここまで読むと、「結局いつ相談すればいいのか」という疑問が残るはずです。
目安は、あと数か月分の運転資金が残っている段階です。この時点なら、破産の費用を確保したうえで、従業員の給料と解雇の段取りを組み、事業所の明け渡しやリース物件の返却まで含めて全体を設計できます。会社の破産と社長個人の債務整理を同時に進めることもできますし、経営者保証ガイドラインを使えるかどうかも検討できます。
相談したからといって、その場で破産が決まるわけではありません。事業を続ける道があるならそれを優先しますし、その判断材料を整理するのが初回相談の役割です。
私は破産管財人として、破産手続を運営する側の仕事も続けています。管財人の立場から見ると、資金が尽きてから申し立てられた事件と、計画的に準備された事件とでは、社長のその後がまったく違います。準備された事件では、従業員の給料が支払われ、社長の免責もスムーズに進みます。再出発までの時間も短い。その差を生むのは、社長が「まだ早い」と思っている段階で一度話を聞いたかどうかです。
初回相談は30分無料です。資金繰りの現状と、あと何か月持つのかをお聞かせいただければ、今の段階で取れる選択肢を整理してお伝えします。破産以外の道が見えることも少なくありません。LINE またはフォームからご連絡ください。
会社の破産手続そのものの流れは、法人破産と代表者の債務のページで解説しています。
債務のご相談は、早いほど選べる手段が多く残っています。秘密は厳守します。