法人破産

公開日:2026/8/25|執筆:弁護士 末安陸斗

会社をたたむと決めたとき、多くの社長が同じことを考えます。長年世話になった取引先にだけは、最後に払っておきたい。運転資金を貸してくれた親にだけは、返しておきたい。

その気持ちは自然なものです。しかし、この支払いは破産手続で「偏頗弁済」として扱われ、受け取った相手が破産管財人から返還を求められます。社長の善意が、守りたかった相手を一番困らせる結果になるのです。

私は破産管財人として、この返還請求を行う側の仕事も続けています。管財人が何を見て、どう判断するのかを知ったうえで、「返したい相手がいるとき、本当にできること」をお伝えします。

偏頗弁済とは、一部の債権者だけを優遇する返済のこと

破産手続の原則は、債権者の平等です。会社に残った財産は、管財人がすべての債権者に債権額に応じて公平に分配します。

偏頗弁済とは、支払いができなくなった後に、特定の債権者にだけ返済することをいいます。他の債権者が受け取れたはずの分を一人の債権者に渡す行為なので、平等の原則に反します。

破産法は、管財人にこの返済を取り消す権限(否認権)を与えています。管財人が否認権を行使すると、返済を受けた相手は受け取ったお金を破産財団に戻さなければなりません。戻されたお金は、あらためて全債権者に公平に分配されます。

管財人は「支払いが止まった時期」を起点に入出金を調べる

管財人は、就任すると通帳と帳簿を過去2年分ほどさかのぼって確認します。特に注意して見るのは、会社が支払不能になった時期の前後です。

支払不能とは、期限の来た債務を一般的かつ継続的に払えなくなった状態をいいます。給料や家賃が払えなくなった、手形が落ちなくなった、金融機関への返済を止めた。こうした時期を特定し、その後に特定の相手に返済した記録がないかを探します。

否認の対象になるのは、主に次の返済です。

親族への返済は、管財人が最も厳しく見る項目です。社長の親や配偶者、兄弟は「会社が危ないことを知らなかった」とは言えない立場だからです。

返還を求められた相手が、社長以上に困る

否認権が行使されると、返済を受けた取引先や親族は、受け取ったお金を管財人に返さなければなりません。

取引先にとっては、一度受け取った売掛金を数か月後に返還しなければならず、自社の資金繰りに穴が開きます。返還に応じなければ管財人から訴訟を起こされます。親族にとっては、「返してもらった」と思っていたお金が消え、しかも破産手続の当事者として管財人とやり取りすることになります。

社長が「迷惑をかけたくない」と思って返した相手ほど、結果として大きな迷惑を受けるのです。

社長個人の免責にも影響する

偏頗弁済は、会社の手続だけの問題ではありません。

会社と同時に社長個人も破産する場合、社長自身の免責が問題になります。破産法は、特定の債権者に特別の利益を与える目的で行った返済を、免責不許可事由として定めています。会社の資金で親族に返済した、社長個人の口座から特定の取引先に払った。こうした事実があると、管財人は免責に消極的な意見を裁判所に出さざるを得ません。

会社のためにした返済が、社長の再出発そのものを危うくします。

偏頗弁済にならない支払いもある

すべての支払いが問題になるわけではありません。次の支払いは、原則として偏頗弁済に当たりません。

逆に言えば、「事業を続けるため」ではなく「この相手に報いるため」の支払いは、ほぼすべて問題になります。

返したい相手がいるとき、本当にできること

では、世話になった相手に何もできないのか。そうではありません。

第一に、その相手を債権者として正しく申告することです。親族からの借入も、取引先への買掛金も、債権者一覧に載せれば、管財人から公平に配当を受けられます。金額は減るかもしれませんが、受け取った配当を返還させられることはありません。

第二に、社長個人の免責が確定した後に、自分の収入から任意に返すことです。免責後の債務は法律上の支払義務がなくなりますが、自分の意思で返すことは妨げられません。再出発後の収入から、親への借金を少しずつ返していく道は残っています。

第三に、そもそも破産の前に相談することです。会社に資金が残っている段階で弁護士が入れば、どの支払いが許容され、どの支払いが問題になるかを一つずつ判断できます。「この支払いは止めてください」と言える相手がいるかどうかで、社長と相手の両方が守られます。

「返したい」と思った時点で、相談してください

偏頗弁済の相談は、多くの場合、返済した後に来ます。「払ってしまったのですが、大丈夫でしょうか」という相談に、大丈夫とは言えません。

返したい相手がいる、その気持ちが出てきた時点が相談のタイミングです。初回相談は30分無料です。誰にいくら返したいと考えているか、会社の資金があとどれくらいあるかをお聞かせいただければ、その相手を本当に守る方法を一緒に考えます。LINE またはフォームからご連絡ください。

破産管財人が申立てのどこを見ているかは、こちらの記事で解説しています。

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