公開日:2026/8/23|執筆:弁護士 末安陸斗
会社の破産は避けられない。では自分も破産しなければならないのか――会社をたたむ決断をした社長が、次に直面する問いです。
答えは「必ずしもそうではない」です。社長個人の保証債務は、経営者保証ガイドラインという仕組みを使えば、破産せずに整理できる場合があります。ただし使える社長と使えない社長がはっきり分かれます。分かれ目になるのは、次の5つの条件です。
会社が金融機関から借りるとき、社長は連帯保証人になっています。会社が破産すれば、その保証債務は社長個人への請求になります。数千万円の請求を個人で返せるはずがなく、従来はここで社長も自己破産するのが当然でした。
経営者保証ガイドラインは、この流れを変えるために2014年に始まった制度です。社長が手元の資産を債権者に差し出し、弁済計画について金融機関全員の同意を得ることで、残った保証債務の免除を受けます。裁判所の破産手続を通さないため、官報に載らず、信用情報機関にも登録されません。
破産との最も大きな違いは、手元に残せる資産の範囲です。破産で残せるのは原則99万円以下の現金と生活必需品だけですが、ガイドラインでは一定期間の生活費に相当する額(年齢により最大で約360万円)と、華美でない自宅を残せる可能性があります。制度の詳しい内容は経営者保証ガイドラインのページにまとめています。
最初の分かれ目は、社長個人の債務の中身です。
ガイドラインの対象になるのは、金融機関に対する保証債務です。社長が個人的に借りたカードローンや消費者金融、親族や知人からの借入、取引先に個人で入れた保証は、このガイドラインの対象になりません。
保証債務以外の借金が数百万円あると、ガイドラインで保証債務だけを整理しても、残りの借金は消えません。結局は破産が必要になり、それなら最初から破産した方が手続は一本で済みます。会社の資金繰りのために社長個人がカードローンを重ねていたケースは、残念ながらこのパターンに当たることが多いです。
ガイドラインは、裁判所が債権者に免除を命じる手続ではありません。弁済計画に対して、対象となる金融機関すべての同意を得る必要があります。一行でも反対すれば成立しません。
同意を得るには、破産した場合より金融機関の回収額が増える計画であることが求められます。たとえば、破産なら配当がほぼゼロになるところを、自宅を残す代わりに預金の一部を弁済に充てる、といった組み立てです。金融機関の数が多いほど調整は難しくなりますが、メインバンクと信用保証協会が前向きであれば、まとまりやすくなります。
ガイドラインの最大の利点は自宅などの資産を残せる可能性があることです。裏を返せば、残したい資産がない社長にとって、この利点は意味を持ちません。
自宅が賃貸で、預金もほとんど残っていないなら、ガイドラインを使っても破産しても、手元に残るものは大きく変わりません。その場合は、手続が確実で期間も読みやすい破産を選ぶ方が合理的です。ガイドラインは万能ではなく、「守るべきものがある社長のための手続」と考えてください。
ガイドラインには、社長の「誠実性」が要件として組み込まれています。
具体的には、財産の状況を金融機関に隠さず開示していること、破産であれば免責が認められなくなるような行為をしていないことです。資産を親族名義に移していた、特定の債権者にだけ返済していた、帳簿に虚偽があった。こうした事情があると、金融機関は同意しませんし、そもそも弁護士として計画を組めません。
これは破産でも同じように問題になります。ただ破産では管財人の調査を経て免責の可否が判断されるのに対し、ガイドラインでは金融機関が同意するかどうかに直結します。疑いを持たれた時点で道が閉じる、という意味で、ガイドラインの方が誠実性に厳しいといえます。
最後の条件は時期です。
ガイドラインによる保証債務の整理は、会社の破産申立てと同時か、その後すみやかに開始する必要があります。会社が破産してから何か月も経ってから「やはり社長の保証債務も整理したい」と動いても、金融機関はすでに社長への請求を始めており、交渉の土台が崩れています。
そして、弁済計画を組むには社長の手元に資産が残っていなければなりません。前回の記事で書いたとおり、最後の融資を使い切ってから相談に来られた場合、ガイドラインはほぼ選べません。
5つの条件を満たしていても、それだけでガイドラインが成立するわけではありません。この手続は、得られる結果が大きい反面、進め方の専門性がきわめて高い分野です。
法人破産そのものが、弁護士の間でも経験の差が出やすい分野です。年間に法人の申立てを何件も扱う弁護士がいる一方で、数年に一度しか扱わない弁護士もいます。経営者保証ガイドラインはさらに扱う機会が少なく、制度の存在は知っていても、実際に弁済計画を組んで金融機関の同意を取り付けた経験のある弁護士は限られます。
その結果、経験の少ない弁護士に相談した場合、「社長も一緒に破産するしかない」という回答になることがあります。本来ならガイドラインで自宅を残せたはずの社長が、検討すらされないまま破産を選ぶ。逆に、条件を満たしていないのにガイドラインを勧められ、時間と資産を失ってから破産に切り替える。どちらも、最初の見立てを誤ったことが原因です。
ガイドラインの手続では、どの資産をどこまで残せるかの線引き、金融機関ごとの同意の取り方、特定調停など利用する手続の選択、会社の破産申立てとの時期の調整を、同時に進めなければなりません。どれか一つを誤ると計画は成立しません。法人破産と保証債務の整理を実際に手がけた経験のある弁護士に、最初の段階で相談することが、結果を左右します。
ここまで読むと、ガイドラインの方が優れているように感じるかもしれません。しかし破産が適切な場合も多くあります。
個人の借金が保証債務以外にも多い。残す資産がない。金融機関の数が多く全員の同意が見込めない。こうした場合は、破産の方が早く確実に再出発できます。破産しても、働いて得た収入は全額手元に残りますし、資格や職業の制限も手続中の数か月に限られます。
費用の面でも違いがあります。社長個人の破産は管財事件になり、予納金として50万円程度が必要です。ガイドラインでは裁判所への予納金は不要で、特定調停を使う場合でも数千円の印紙代で済みます。ただし弁護士の作業量は計画の策定や金融機関との交渉が加わる分、ガイドラインの方が多くなります。
5つの条件のうち、条件1から3は、社長個人の借入の一覧と資産の状況を聞けば、初回の相談でおおむね判断できます。条件4と5は、会社の状況をうかがったうえで見通しをお伝えします。
破産するしかないと思っていたが自宅を残せる道があった、という場合もあれば、ガイドラインを期待していたが破産の方が早く楽になれる、という場合もあります。どちらにしても、選べる状態で相談に来られるかどうかは、その時点で資金と時間が残っているかで決まります。
初回相談は30分無料です。会社の借入の一覧と、社長個人の借入・資産の状況が分かるものをお持ちいただければ、どちらの道が現実的かをその場で整理します。LINE またはフォームからご連絡ください。
債務のご相談は、早いほど選べる手段が多く残っています。秘密は厳守します。