概要
自己破産は、裁判所に申し立てて、借金を強制的にゼロにする手続です。
全債務を対象としなければならず、高額な財産は処分されてしまいます。
同居の家族に関する資料(所得証明など)が必要で、家計表も作成しなければならないため、内緒にするのは難しいといえます。
赤い札を貼られて家具や家電まで差し押さえられるというイメージは間違いで、生活必需品は処分されません。
自動車も5年落ちの国産車などは残すことが可能です(外車でも価値がなければ残せます)。
ギャンブルや浪費で借金をした場合は免責されないというのは誤解で、現在の運用では、ほとんどの人は免責されています。
自己破産のデメリット
- 高額な財産の処分
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不動産、自動車、保険、退職金など、高額な財産が処分対象となります。
※5年落ちの国産車や解約返戻金が20万円以下の保険などは残せます。 - 官報公告
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官報(国が発行する新聞のようなもの)に氏名と住所が掲載されます。
※官報を見る人は限られており、インターネット上では30日間のみ無料で掲載されます(画像データなので、名前で検索しても辿り着くことはできません。)。 - 全債務が対象
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友人、親戚、勤務先などから借りた分も対象にしなければならないため、これらの借入がある場合には、迷惑を掛けてしまいます。また、保証人がいる債務だけ除外するということもできません。
- 信用情報機関への登録
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他の債務整理と同じで、信用情報機関に登録され、一定期間、新しくお金を借りたり、ローンを組んだりすることができなくなります。
- 同居の家族に秘密にしにくい
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自己破産では、家計全体の収支を家計表にする必要があります。また、同居家族の所得証明なども必要になります。そのため、同居の家族に秘密のまま進めるのは困難なことが多いと言えます。
自己破産しても処分されない財産
- 99万円までの現金
- 20万円以下の預貯金
- 保険解約返戻金(全保険の合計が20万円以下の場合に限る)
- 自動車(処分見込合計額が20万円以下の場合に限る)※初年度登録から5年を経過した自動車については、なお相当な価値があることが類型的にうかがわれるもの(ハイブリッド車、電気自動車、外国製自動車、排気量2,500㏄を超えるものなど)を除き、価値を0円とみなすことができる。
- 居住用家屋の敷金等返還請求権
- 電話加入権
- 退職金債権のうち支給見込額の8分の7相当額(8分の1相当額が20万円以下の場合には当該退職金債権の額)
- 家財道具
- 差押えを禁止されている動産又は債権
これらに該当しても例外的に処分される場合があります。たとえば、5年を経過した自動車は、普通は価値が低いと思われるので処分対象外になっていますが、100万円で買ったばかりの5年落ち中古車であれば、20万円を超える価値が付く可能性が高いので、処分されるかもしれません。また、退職金の8分の1しか処分対象にならないのは、もともと4分の3が差押え禁止であることに加え、将来の支給の確実性がないため、現在価値を更に半分と見積ったからです。したがって、近い将来退職が決まっている場合には、支給の確実性があり、4分の1が処分されてしまう場合もあります。家具家電などの家財道具は処分の対象になりませんが、たとえば買い物依存症が多重債務の原因で、大量に買った家財道具が残っている場合には、処分対象になる可能性もあります。
同時廃止と少額管財
同時廃止とは、裁判所が書面だけで免責を許可する場合です。破産手続開始決定と同時に手続を廃止(終了)するため、同時廃止と呼ばれています。管財人を選任する必要がない場合は同時廃止になります。
少額管財とは、裁判所が破産管財人(弁護士)を選任する場合です。破産管財人の仕事は、財産調査(未申告の財産がないかなど)、財産の換価と配当(財産をお金に換えて債権者に分配すること)、免責調査(免責を許可すべきかどうかを調査して、裁判所に意見を提出すること)などです。管財人に支払う費用(管財予納金)が、昔は最低50万円くらい必要だったのに対し、最低20万円程度に抑えられていることから、少額管財という呼び方をしています。
少額管財では最低20万円の予納金が必要なのに対し、同時廃止では不要という違いがあります。
自己破産の流れ
弁護士に依頼した時点で、取立て・返済はストップします。
借入先から債権調査票を提出してもらい負債残高を確認します。
何か月かかけて、弁護士費用を分割入金します(返済はストップしています)。
また、裁判所に提出する資料の収集(家計表の作成を含む)をします。
費用と書類の両方が揃ったら、裁判所に自己破産の申立てを行います。
破産管財人が選任される場合には、1週間~2週間程度で破産手続開始決定が出ます。
同時廃止の場合は、免責に関する意見申述期間が2か月程度設けられ、その後、免責決定が出ます。
破産管財人の調査に協力します。
破産管財人の事務所に行き、事情聴取を受けたり、追加資料の提出をしたりします。
財産がある場合には、破産管財人が財産を処分し、お金に換えます。
破産者には、破産管財人の調査に誠実に協力する義務があります。破産管財人の調査に非協力的な態度を取ったり、虚偽の説明をすると、免責が許可されない可能性があります。
債権者が破産管財人の報告を聴きに来る集会です。追加調査・財産処分・配当などの作業が残っている場合には、1か月~2か月ごとに複数回実施されます。財産がない場合には1回で終了します。銀行、消費者金融、クレジットカード会社などの金融機関は債権者集会に出席しないのが普通です。
裁判所が免責許可(不許可)決定を出します。免責決定は官報に公告されます。
必要書類一覧
裁判所に提出する必要書類は次の通りです(福岡地裁の場合)。
012-標準資料一覧表弁護士費用
- 着手金
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330,000円~418,000円(税込)
- 実費
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33,000円
- 予納金(管財)
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200,000円~
- 報酬金
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なし
自己破産のQ&A
- どれくらい借金があると自己破産になりますか?
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自己破産するには「支払不能」(破産法15条1項)であることが必要です。「支払不能」かどうかは、個々の家計状況によりますが、一応の目安として、借金の元本を3年で返済できなければ「支払不能」に該当すると言われています。
- 借金が100万円でも自己破産できますか?
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「支払不能」であれば可能です。借金が100万円しかなくても、収入が乏しければ、「支払不能」に該当することはあります。たとえば、生活保護を受けている方の場合、借金が10万円でも「支払不能」です。
- 親戚や会社から借りた分は除外できますか?
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自己破産は全債務を対象とするので、親戚や会社からの借入を除外することはできません。また、これらの債務だけを支払う行為は偏頗弁済(へんぱべんさい)といって、法律上禁止されています。
- 戸籍や住民票に載りますか?
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自己破産しても、戸籍や住民票には何も記載されません。
- 家族や勤務先に知られてしまいますか?
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官報に掲載されるので、絶対に知られないという保証はありませんが、官報を見る人は少ないので、過度に心配する必要はありません。ただし、裁判所に提出する資料として、同居のご家族の所得証明が必要だったり、家計表を作ったりする必要があるので、同居のご家族に打ち明けなければ準備ができないことが多いと言えます。また、家族や勤務先から借入がある場合には、弁護士及び裁判所から通知が行くので、知られてしまいます。
- 夫が自己破産した場合、妻に影響はありますか?
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影響はありません。妻の財産も処分されません(ただし、破産による処分を免れるために、夫の財産を妻名義に移した場合を除く)。
- 家族に影響がないのに、なぜ家族の資料が必要なのでしょうか?
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「支払不能」に該当するかどうかは、家計全体を見なければ分からないので、家族の所得証明が必要になります。また、破産者の財産が家族名義に移されていないかを確認する必要もあります。
- 制限職種にはどのようなものがありますか?
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- 弁護士
- 司法書士
- 警備員
- 声明保険募集人
- 運転代行業
- 風俗営業の営業所の管理者
- 任意整理中ですが自己破産できますか?
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任意整理で返済中であっても、自己破産に切り替えることはできます。
- 携帯は使えなくなりますか?
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自己破産しても携帯は使用できます。携帯端末を割賦で購入している場合は、破産手続に組み入れる場合もありますが、少額の場合には、組み入れないこともあります。
- 破産管財人は自宅を調査しますか?
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ほとんどの場合、破産管財人は自宅を訪ねたりはしません。今までに私が経験した事案では、買い物依存症で、自宅に商品が大量にあったので、内容を確認するために訪問した例があります。
- 2度目の自己破産は可能ですか?
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前回の破産免責確定から7年以内の場合は免責不許可事由になりますが、7年が経過している場合には、2度目の破産であること自体は免責不許可事由ではありません。ただし、2度も破産するということは、通常、浪費が疑われるので、破産管財人による免責調査が実施される可能性が高くなり、慎重に判断されることになります。当事務所では、過去、何件か2度目の破産申立てをしたことがありますが、免責不許可になった例はありません。
- 賃貸は借りれなくなりますか?
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信用情報機関に登録されるので、家賃保証会社が必須の賃貸物件は、保証会社の審査が通らない場合があります。しかし、不動産仲介業者や家主(オーナー)自身は、他人の信用情報を見ることができないので、家賃保証会社が不要な賃貸であれば、問題なく借りることができます。
- 自己破産すると銀行口座は作れなくなりますか?
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自己破産しても、銀行口座は問題なく作れます。また、一度凍結した口座も、保証会社が代位弁済した後は、再び使用できるようになることが多いと言えます。
- 公務員が自己破産したら、仕事への影響はありますか?
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自己破産したからといって、それだけで懲戒されたりはしませんが、共済や組合から借金をしていたり、同僚から借金をしていた場合、周囲に迷惑をかけたということで、信用失墜行為として懲戒の対象となる場合もあります。
- 自己破産しても、自営業は続けられますか?
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自営業の内容によります。本来、売掛金は財産なので、破産すると処分対象(配当に回す)です。他方、買掛金は債務なので、破産債権として、支払いを停止する必要があります。したがって、資金繰りができなくなったり、取引先に迷惑をかけることになるので、通常、自営業は廃業せざるを得ないことが多いと言えます。しかし、現金決済の事業だったり、取引先が1社のみで、事実上サラリーマンと変わらないような働き方をしている場合には、そのまま継続できることがあります。ただし、多重債務の原因が事業資金の場合には、その事業を継続しつつ、借金だけ免責を受けるのは筋が通らないので、避けるべきだと思います。
- 家賃を滞納しています。これも自己破産できますか?
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引っ越す場合には、支払いを停止し、自己破産手続に組み込みます。しかし、自己破産で免責を受けると、信頼関係破壊により、賃貸借契約が解除され、退去を求められるので、居住を継続する場合には、破産手続から除外し、滞納を解消する必要があります。家賃に関しては、居住を継続する目的であれば、支払いをすることに問題はありません。
- 子どもの奨学金の保証人になっています。自己破産しても大丈夫ですか?
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保証人が自己破産した場合、他の保証人を立てることを求められる場合があります。契約上は、保証人が自己破産して、代わりの保証人が立てられない場合、一括請求ができることになっていると思いますが、奨学金であれば、事実上、一括請求したりはしないことが多いと思います。
- 弁護士に依頼すれば、差押えを回避できますか?
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弁護士に依頼しても、訴訟を提起するのは適法ですし、差押えも適法です。したがって、多少先延ばしにすることはできますが、差押えを確実に回避することはできません。差押えを回避するためには、破産手続開始決定を得る必要があります。
- 弁護士に依頼しているのに、訴状が自宅に届いたのですが、このようなことはあるのでしょうか?
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弁護士に依頼していても、訴状は自宅に届きます。弁護士は、あくまで自己破産の代理人であって、まだその訴訟の代理人ではないからです。弁護士の方では、訴訟を起こされたということ自体知ることができないので、速やかに弁護士に知らせて、裁判所から届いた書類一式を郵送してください。
- 管財費用が高くなるのは、どのような場合ですか?
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通常、破産管財人に支払う予納金は20万円ですが、管財人の予想業務量が多い場合には、30万円以上になることがあります。たとえば、債権者の数が多い、債務総額が多額、金融機関以外の債権者が多い、売却が必要な不動産があるなどのケースが考えられます。
- 自己破産で免責決定が出た後、ずっと前に滞納して督促も来てなかった借金が見つかりました。支払う必要はありますか?
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意図的に申告しなかった借金には免責の効果が及びませんが、意図的でない場合には、免責の効果が及びます。免責決定のコピーを送ってみましょう。
- 借金のほとんどがギャンブルでも、自己破産できますか?
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現在の運用では、免責不許可事由があっても、ほとんどの人は裁量免責されています。ギャンブルで1000万円以上の借金があった人でも免責されているので、あまり心配する必要はありません。
- 破産手続中は、税金は支払っても良いのでしょうか?
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税金は、滞納分も含め、支払って構いません。
- 保険は解約する必要がありますか?
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全保険を解約返戻金の合計が20万円以下であれば解約する必要はありません。20万円を超える場合、原則として解約の必要があります。ただし、契約者貸付を受けて、解約返戻金を減少させたり、解約返戻金相当額を自由財産や親族の援助で積み立てたりすれば、解約を避けることが可能です。
- 自己破産中は引越しできますか?
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引越しは可能です。ただし、自己破産の申立前に県外へ引っ越した場合、裁判所の管轄が変更となり、申立時の住所地を管轄する裁判所に申し立てる必要があります。遠方の場合、弁護士が出席できなくなったり、交通費や日当などの費用が発生する場合があります。
- 判決を取られていますが、自己破産できますか?
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判決を取られていても、自己破産で免責を得ることは可能です(養育費や税金などの非免責債権を除く)。ただし、裁判所に申立てをして、破産手続開始決定を得なければ、強制執行を止めることはできません。
- 弁護士費用は何回分割にできますか?
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最長1年を目安にしています。弁護士に依頼していても、破産申立てをするまでは、訴訟を起こされる場合があり、判決を取られると、給与や預金の差押えを受けることもあります。このような事態を避けるためには、1年を超える分割は望ましくないからです。ただし、貸金業者によっては、強制執行をしてくる可能性が低い場合もあり、1年を超える分割をすることもありますし、逆に、1年未満で弁護士費用を完済していただく必要がある場合もあります。
- 他の弁護士に依頼していましたが、辞任されてしまいました。依頼を受けてくれますか?
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当事務所では、他の弁護士に辞任された方の依頼も積極的にお受けしております。ただし、他の弁護士に辞任された方の場合、弁護士が介入してから、既に相当期間が経過していることが多く、強制執行を受けるリスクが発生している場合もありますので、その場合は、弁護士費用の積立期間が短期になることもあります。詳しくは、現在の状況に応じて、ご説明させていただきますので、お気軽にお問い合わせください。
- 家族に内緒で進めることはできますか?
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同居されていないご家族には話す必要はありません。しかし、同居されているご家族には、事情を説明しておかなければ、課税証明書や無資産証明書といった公的証明書、給与明細などが用意できなかったり、正確な家計表を作成することができないことがありますので、ほとんどの場合、ご家族に話していただかなければ、進められません。これらの課題がクリアできる場合で、同居のご家族に内緒で進めた実績もありますので、絶対に不可能というわけではありませんが、当事務所では、同居のご家族には事情を説明することをお勧めしております。